
墓じまいを進めようと思っても、どの順番で何をすればいいのか、役所への申請や必要書類が分かりづらいと感じる方は多いでしょう。
実際、墓じまいの手続きは「親族の合意」「お寺への相談」「改葬許可の申請」「閉眼供養」「工事」「納骨」という複数のステップから成り立っています。
さらに、市区町村によって申請書類や手続きの流れが異なるため、正確な手順を把握しておかないと、思わぬトラブルや申請ミスにつながることも。
この記事では、墓じまいの手続き全体の流れ・必要書類・改葬許可の取り方・役所での申請ポイントを、初めての方にも分かりやすく整理。
「どこに相談すればいいのか」「いつ何を出せばいいのか」が一目で分かる、実践的なガイドとしてお届けします。
墓じまい手続きの全工程とタイムライン
墓じまいは、思いついたその日からすぐにできる手続きではありません。
お寺や親族との調整、行政手続き、工事、そして供養まで、いくつかの段階を順に踏む必要があります。
ここでは、全体の流れを「6つのステップ」に分けて、一般的なスケジュール感とともに解説します。
ステップ1:親族への相談と合意形成
まず最初に行うべきは、家族・親族間での話し合いです。
墓じまいは先祖に関わる重要な決定のため、誰か一人の判断で進めるとトラブルになることがあります。
「どのように供養を続けるのか」「遺骨をどこに移すのか」「費用はどう分担するのか」などを事前に共有しておきましょう。
この段階で方向性が固まれば、次のステップがスムーズになります。
ステップ2:お寺・霊園への相談
次に、現在お墓を管理している寺院や霊園の管理者に相談します。
檀家の場合は「墓じまい(離檀)」の意向を伝え、閉眼供養(魂抜き)や離檀料の確認を行います。
民営・公営霊園の場合も、管理者への届け出が必要です。
お寺との信頼関係を保ちながら、丁寧に進めることが大切です。
ステップ3:改葬先(遺骨の移転先)の確保
墓じまいでは、遺骨を移す「改葬先」を決めなければ、行政手続きを進めることができません。
改葬先には、永代供養墓・納骨堂・樹木葬・合祀墓・散骨などの選択肢があります。
新しい供養先が決まったら、受け入れ先施設から「受入証明書」を発行してもらいます。
この書類が、後の改葬許可申請で必要になります。
ステップ4:改葬許可の取得(役所での手続き)
次に、現在お墓がある市区町村の役所で「改葬許可申請」を行います。
申請時には、下記の書類が必要です。
- 改葬許可申請書
- 現在の墓地管理者が発行する「埋葬証明書」
- 改葬先の「受入証明書」
審査に1〜2週間ほどかかる場合もあるため、早めの準備を心がけましょう。
ステップ5:閉眼供養と墓石撤去工事
改葬許可が下りたら、お墓の魂を抜くための閉眼供養(へいがんくよう)を行います。
僧侶を招いて読経してもらい、供養を終えた後に、石材店や墓じまい業者が墓石撤去工事を実施します。
撤去の所要日数は規模にもよりますが、通常1〜3日程度です。
この段階では、供養のタイミングと工事スケジュールを連動させることが大切です。
ステップ6:遺骨の移送・納骨
工事が完了したら、遺骨を新しい供養先へ運びます。
納骨時には、改葬許可証を提示して手続きを行い、永代供養や納骨堂などで正式に安置します。
この時点で墓じまいの手続きは完了です。
すべての工程をスムーズに進めた場合でも、2〜3か月程度かかるのが一般的です。
親族間の調整や書類の準備に時間がかかることも多いため、「春・秋のお彼岸に合わせて墓じまいをしたい」場合は、少なくとも3か月前には動き始めるのが理想です。
墓じまいの流れを正しく理解しておくことで、「何から手をつければいいのか」「どこで何を申請すればいいのか」が明確になります。
墓じまい必要書類の一覧と入手先
墓じまいを進める際には、行政手続きで提出が求められる書類が複数あります。
“改葬許可申請”を行うには、現在の墓地管理者や改葬先、役所から発行・取得する書類が必要です。
この章では、代表的な必須書類とその入手先・注意点を整理して解説します。
受入証明書(改葬先の管理者発行)
受入証明書とは、これから遺骨を移す改葬先が「遺骨の受入れを承諾した」ことを証明する書類です。
改葬許可申請ではこの書類が必須とされる自治体も多く、申請前に取得しておくことが望ましい。
- 入手先:改葬先の寺院・納骨堂・霊園など
- 記載事項:改葬先名称・所在地・管理者名印・受入対象者氏名
- 注意点:新しい供養先が決まっていないと取得できないことがあるので、事前に確保しておきましょう。
埋蔵(納骨)証明書/埋葬証明書(現在のお墓の管理者発行)
現在のお墓に埋葬または収蔵されている遺骨が確実にあることを証明する書類で、自治体によっては「埋蔵(収蔵)を証する書面」とも呼ばれます。
- 入手先:現在のお墓を管理する寺院・霊園管理事務所
- 記載事項:埋葬者氏名・使用者氏名・墓地所在地・管理者印
- 注意点:離檀料の未払い等があると発行に時間がかかる可能性があります。
改葬許可申請書(市区町村役所)
行政手続きを行う上で中心となる書類です。現在のお墓がある市区町村の役所で申請・提出します。
- 入手先:市区町村役所窓口、または自治体HPからダウンロード可
- 提出者:墓地使用者または委任を受けた親族
- 記載内容:申請者氏名・死亡者氏名・改葬先名称・改葬理由など
- 注意点:委任申請の場合は「委任状」と「本人確認書類」などが別途必要となる自治体もあります。
自治体によっては、以下の書類が必要とされるケースがあります。
- 改葬承諾書(名義人と申請者が異なる場合)
- 戸籍謄本・印鑑・本人確認書類の写し
申請前には、必ずお墓の所在地の市区町村役所に最新の要件を確認してください。
墓じまいの役所での申請手順
「墓じまい」を行い、遺骨を新しい供養先に移すためには、役所での 「改葬許可申請」 が重要なステップです。
この申請を終え、役所より 「改葬許可証」 が交付されて初めて、正式に遺骨を移動できるようになります。
ここでは、市区町村役所での申請手順と、知っておくべき注意点をわかりやすく整理します。
改葬許可申請の流れ
まず、現在遺骨が納められているお墓の所在地を管轄する市区町村役所に対して改葬許可申請を行います。必要な書類として多くの自治体で以下が挙げられています。
- 改葬許可申請書(役所窓口または自治体HPで入手可能)
- 現在のお墓の管理者が発行する「埋蔵(または埋葬・収蔵)を証する書面」
- 新しい供養先から発行された「受入証明書または使用許可証等」
申請後、審査を経て改葬許可証が交付されます。許可証は遺骨を改葬先に納める際に必要なので、紛失しないよう保管しましょう。
委任・代理申請のケース
通常は墓地使用者(名義人)が申請しますが、本人が手続きできない場合は親族や行政書士に委任することも可能です。
この場合、次の書類が追加で必要になる自治体もあります。
- 委任状(名義人の押印あり)
- 本人確認書類の写し(申請者および委任者)
また、代理人申請の場合、申請者情報と改葬先の情報の記入漏れ・誤記があると申請が差し戻されることがあります。
申請時のよくあるミスと注意点
改葬許可申請でよく見られる誤りには次のようなものがあります。
- 改葬理由の記載が不十分:「管理が困難」など具体的説明がないと却下される場合あり
- 書類の発行元が誤っている:「受入証明書」が改葬先と異なる名義であるケースなど
- 遺骨1体につき1通の申請書が必要な自治体で、複数人を一括記入して提出してしまった
- 散骨や手元供養など改葬に該当しないケースで、改葬許可申請を無理にしようとして窓口で断られる例もあります。
改葬許可申請は墓じまいの中でも最も行政的な手続きです。書類を揃えて申請すれば難しいものではありませんが、書類漏れ・代理申請の不備・制度の適用外といった理由で手続きが止まることが頻繁にあります。
提出前には、役所窓口で申請条件を確認し、改葬許可証が発行されてから改葬先に遺骨を移す流れを守ることで、トラブルを避け、安心して手続きを進められます。
墓じまいのよくあるつまずき(受入先が決まらない 等)
墓じまいは「書類を出せば終わり」ではなく、現実にはさまざまな壁に直面することがあります。
特に多いのが、新しい納骨先が見つからない、親族間で意見が割れる、離檀料の金額でもめるといったケースです。
ここでは、実際に寄せられることの多い“つまずきポイント”と、その対処法をまとめました。
改葬先(受入先)がなかなか決まらない
墓じまいを始めようと思っても、まず悩むのが「遺骨をどこへ移すか」です。
近年では「永代供養墓」「納骨堂」「樹木葬」「散骨」「手元供養」など選択肢が増えていますが、それぞれ費用・供養形式・宗派対応が異なり、すぐに決められない人が多く見られます。
- 永代供養墓:合祀形式が多く、費用は1体あたり5〜30万円前後
- 納骨堂:アクセスは良いが管理料が年間で発生するケースあり
- 樹木葬:自然志向が強いが、埋葬場所の変更ができない場合も
- 複数の施設を比較見学して、「供養形態」よりも「自分たちが通いやすいか」を基準に選ぶ
- 改葬許可申請前に必ず「受入証明書」を発行してもらえるか確認する
親族間で意見が分かれる・同意が得られない
墓じまいは、名義人だけで進めることが可能な場合もありますが、実際には兄弟・親戚などの感情面の同意が得られず、話が進まないことがあります。
特に「先祖の墓を壊すことへの抵抗感」や「法要・供養の扱い」に関する価値観の違いが、家族間のトラブルの原因になりやすいです。
- 「墓じまい=供養をやめること」ではなく、「より安心して供養を続けるため」と説明する
- 改葬後の供養形式(永代供養や合同墓)をパンフレット等で示すと理解されやすい
- 合意形成の記録を残しておくと後日の誤解を防げる
離檀料や閉眼供養で揉める
寺院にお墓がある場合、墓じまいの際には「離檀の申し出」と「閉眼供養」を行う必要があります。その際に「離檀料の金額」や「お布施の渡し方」で揉めることが少なくありません。
- 離檀料の相場:1〜5万円程度が目安(高額請求はまれ)
- 閉眼供養のお布施:宗派や地域により異なるが、1〜3万円前後が一般的
- まずは丁寧に離檀の理由を伝え、「長年の供養への感謝」を言葉にする
- 納得いかない高額請求があった場合は、宗派本山や仏教会への相談も可能
- トラブル防止のため、見積や領収書を必ず保管しておく
見積やスケジュールでの認識ズレ
墓石撤去・運搬・供養など複数業者が関わるため、スケジュールや費用のズレが発生しやすいのも特徴です。
特に、改葬許可証が発行される前に工事を進めてしまうと、法的にトラブルになる恐れがあります。
- 施工開始日は「改葬許可証が手元に届いてから」に設定する
- 見積書に「撤去費用・運搬費・供養料・事務費」などの内訳が明示されているか確認
- 作業日程・立会いの有無・遺骨の引き渡し方法を文書で残す
墓じまいのトラブルの多くは、「事前説明の不足」「感情的なすれ違い」「書面確認の甘さ」から起こります。感情面・金銭面・手続き面の3つを意識して進めることで、多くの問題は防ぐことができます。
とくに、「受入先の確定」「親族の同意」「離檀・閉眼供養の段取り」の3つを早い段階で整理しておくことが、スムーズな墓じまいの鍵となります。
墓じまいの行政書士/石材店に依頼する境界線
墓じまいの手続きは「役所への申請」と「現場作業」という性質の異なる2つの工程に分かれます。
そのため、「行政書士に依頼すべきか」「石材店だけで十分か」と迷う人が多く見られます。
ここでは、それぞれの専門家が対応できる範囲と、依頼すべきタイミングの目安を整理します。
行政書士に依頼できる業務範囲
行政書士は、役所関連の書類作成・提出代行を専門とする国家資格者です。
墓じまいでは、次のような業務を依頼できます。
行政書士が対応できる主な内容
- 改葬許可申請書の作成・提出代行
- 委任状や戸籍謄本などの添付書類の収集代行
- 改葬許可証の受け取り・返送代行
- 離檀に関する文書(離檀届・受領書など)の作成補助
メリット
- 書類の不備・差し戻しを防げる
- 遠方に住む場合でも、郵送・委任で申請を完結できる
- 複数の遺骨をまとめて申請する際にミスを防止できる
費用相場
1件あたり 2万〜5万円前後(地域・書類数により変動)
※あくまで「行政手続き部分」の代行であり、現場工事は別途必要です。
依頼すべき状況の例
- 名義人が高齢または遠方に住んでいて、役所への出向が難しい
- 書類の記入・提出を一括して任せたい
- 複数の自治体にまたがる改葬手続きを行う場合
石材店・墓じまい専門業者に依頼できる範囲
石材店や墓じまい専門業者は、現地工事と撤去作業を中心に対応します。
石材店が担当する主な作業内容
- 墓石の解体・撤去・運搬・処分
- 遺骨の取り出し補助
- 現地での閉眼供養時の立会い
- 改葬先への納骨サポート(運搬補助)
費用相場
1基あたり 15〜30万円前後(墓石サイズ・立地条件で変動)
重機が入れない山間地や、埋設深度が深い場合は追加費用が発生します。
選定時のチェックポイント
- 見積書に「撤去費用・運搬費・処分費・供養料」が明記されているか
- 「改葬許可証交付前の着工」は避ける
- 遺骨の扱い・供養方針について事前に確認する
どちらに依頼すべきか迷ったときの判断基準
墓じまいは、行政と現場が交錯する特殊な手続きです。
したがって、「どちらか一方だけ」に依頼するのではなく、役割を分担するのが現実的です。
| 項目 | 行政書士に依頼 | 石材店・業者に依頼 |
|---|---|---|
| 改葬許可申請書の作成 | ◎ | × |
| 役所への提出・受領代行 | ◎ | △(代行不可の業者も) |
| 離檀・閉眼供養の書面整理 | ◎ | △(宗派次第) |
| 墓石撤去・運搬・処分 | × | ◎ |
| 工事見積・現地確認 | × | ◎ |
| 遺骨の取り出し・納骨補助 | × | ◎ |
| 費用相場 | 2〜5万円 | 15〜30万円 |
- 「書類が複雑で不安」→ 行政書士に相談
- 「物理的にお墓を撤去したい」→ 石材店・専門業者へ依頼
- 「どちらも必要そう」→ 両者が連携している業者(ワンストップ型)を選ぶ
墓じまいは、行政手続き(書類)+現場作業(撤去・供養)という2本柱で進みます。
このうち、書類に関する部分は行政書士、現場に関する部分は石材店がそれぞれ得意分野です。
「自分でできること」と「専門家に任せたほうがよいこと」を整理することで、無駄な費用やトラブルを避け、スムーズに墓じまいを完了できます。
もし迷った場合は、行政書士と石材店が連携している「墓じまい代行一括サービス」などを利用するのも有効です。
複数業者の見積を比較し、自分の状況に合った依頼形態を選びましょう。
まとめ:墓じまい手続きの全体像と安心して進めるポイント
墓じまいの流れは、7ステップで進みます。
①親族の合意 → ②お寺・霊園への相談 → ③改葬先の確定 → ④書類の準備 → ⑤役所での改葬許可申請 → ⑥閉眼供養・撤去工事 → ⑦納骨・完了報告
このうち、もっとも重要なのが「改葬許可申請」と「受入先の確定」です。新しい納骨先が決まらなければ書類が発行できず、許可証がないと撤去工事も着工できません。
一方で、改葬許可証が交付されれば、遺骨を正式に移すことが可能になります。
- 事前に親族の理解を得ること
-
「墓をしまう」ではなく「新しい形で供養を続ける」という前向きな意図を共有しましょう。
- 書類とスケジュールをセットで管理すること
-
改葬許可証・埋蔵証明書・受入証明書の3点を揃えてから工事を依頼するのが安全です。
- 専門家のサポートを上手に活用すること
-
行政書士が書類を、石材店が現場を担当することで、負担とトラブルを最小限にできます。
墓じまいは、単なる撤去作業ではなく、「これからの供養の形を整える大切な決断」です。
費用や書類に不安があるときは、早めに寺院・行政書士・石材店に相談して、無理のない計画を立てましょう。
手順を理解し、関係者と丁寧に連携すれば、心残りのない形で先祖の想いを引き継ぐことができます。
